9784579115075
『アラン、ロンドン、フェアアイル 編みもの修学旅行』三國万里子 文化出版局、2014年
(表紙写真は出版社サイトよりお借りしました) 

表紙のもこもこひつじ! と(たぶん)見つめ合っている著者は、ニットなどのデザインで知られる方です。
写真は、フェア島(イギリス北方のスコットランドの、さらに北方のシェットランド諸島、の果てにあるニットに関わりの深い島)のニットデザイナーであるマチさんのペットのひつじ(シェットランドシープ種)。

寒い日には、ひつじそのものを着たくなります(鼻息)!(実際は脂だらけになるそうですが)。
ニットが好きで、なんちゃって編みものが好きです。まっすぐにしか編めないけど、同じ動きを繰り返していると、やるべきことをやっている気がするのか、心が落ち着く…と思いきや、針を持っていないと落ち着かなくなり、すっかり癖になるのが編みものの恐ろしいところです。ゲームに似ている気が。。。編み図を読み解ける人は、数学者かパズラーのようで尊敬します!

本書はシェットランド諸島(フェアアイル=フェア島)を皮切りに、下ってエディンバラ、アイルランドへ飛んで、これも最果てのアラン諸島、さらに下ってフランスに間近なイギリス領ガーンジー島、ロンドン、と編みものの専門家による修学旅行が紹介されています。

三國さんのデザインになる、シンプルでしっかりした感じのニット(セーター数点、ティーコジー、ミトン、カーディガン、ショール)と編み方も載っていますが、メインはとても上質な紀行本そのものです。編みものができる方は、このセーターのふるさとの資料と美しい写真を見ながら、編みものライフが何倍にも楽しくなるのだろうと思うとうらやましいです。

ひとことで言うと、とても美しい本です。この美しさは何かに似ている! と思ったら、今は変わってしまった懐かしい雑誌「ku:nel」の雰囲気です。ぜいたくな余白、しっかりした取材・充実した構成、飾っておきたいような写真の数々。奥付を見ると、写真家の長野陽一さんを始め、ku:nelでもおなじみのデザイナーやスタイリストさんの名前が載っていて納得、会えなくなっていた人に再会したような気持ちになりました。(実は、アラン島周辺の「セーター紀行」が今まで載っていなかったかどうか、先日ku:nelの目次を調べられるだけ調べたのでした。少し載っていたのですが、別の出版社からこんな良い本が出ていたんですね)

もちろんこの本はそれだけではなく、三國さんの作品に惚れ込んだ、関わりの深い編集者(三角紗綾子さん・リトルバード)によって、三國さんの視点から見たセーターの聖地のエッセンスがすくい取られ、載っている作品に反映されたものとして示されています。

アラン島では、ハンドニットの仕事がもうなされていないとのこと。これは、島の女性の職業選択の幅が広がった、良いことなのです。また、膨大な時間と毛糸を要するハンドニットだけでは食べていけないことを意味します。

自然の色を取り入れた、細やかな色合いと模様で知られるフェアアイルニットのデザイナー、マチさんはこう言っています。

 (手編みの)フェアアイルニットの伝統を守りたいと思っています。でも、この仕事で食べていけないと、若い人がついてこないでしょう。このやり方なら(マチさんの考案した機械編み)、コストが抑えられてみんなが買える値段になるし、売れれば暮しも立つ。熟練のニッターたちは、昔ながらの手法にすごくこだわって、すべて手で編むことが大事だと思っています。それなのに、そんなに時間をかけたセーターにちゃんとした値段をつけなくなっている。低価格の衣料品に負けてしまうからです。やがて後継者がいなくなり、産業自体がすたれ、なくなってしまうのではないかと心配です。
       (スコットランド フェア島のマチさん より)

また、アラン諸島の女性に著者は
「あなた、編みものを仕事にしているって、ちゃんと稼げているの?」
と尋ねられています。それに対し著者はこう書いています。

 世界にはたくさんのものがあふれていて、でも一人の人が大事に思えるものの数はきっとそんなに多くない。その中で、人が欲しいと思ってくれるセーターのデザインをしたい。
 わたしの答えは「しっかり稼ぐつもりです」なのです。
  (アラン諸島 テレサさんが見せてくれたもの より)

いろんな仕事、物ごと、人間関係にも響くように共通する、いい言葉だなあと思いました。
編みものをする方はもちろん、ニットがなんでか好きでたまらない私のような人にも、おすすめの冬にぴったりの一冊です。なんでこんなに好きなのかな。。。(謎)

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