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『紀行・アラン島のセーター』伊藤ユキ子 晶文社、1993年(絶版)
(表紙画像はAmazonよりお借りしました)

編みものやニット製品が好きで(手触りが好きなだけで自分では編めません)、セーターが好きで、中でもフィッシャーマンズセーター、さらにアイルランド製に興味があります。
軽くて暖かいフリースもいいのですが、本当に寒い時に毛100%の暖かさにはかなわないし、理由がなくニットが好きなのです。

アイルランドじたいにも興味というか憧れがあります。暗い雲と明るい光が同居する不思議な空、行ったことないけどたぶん寒い土地。好きだな、と思う作家や音楽家がアイルランド系ということも多いです(ボーイ・ジョージも確かそうですよね)。
ハンドニットはとても高級品ですが、、でも古着なら安かったので、思い切って買ってしまいました! ほくほく大満足しています。

タグには編み手の名前と、アイルランド(ドニゴール)のお店の名前が入っています。有名なアラン島で編まれたものではないだろうけど、生まれた土地や背景を知りたくて本書を読みました。

ネットで調べると「フィッシャーマンセーターの模様は、海で働く人の安全と豊漁の祈りをこめたもので、もし何かあっても誰かわかるように、その家独特の模様を編み込んできた歴史があります」という記述にあたることがあります。ダイヤモンド、ハニーコム(蜜蜂の巣)、ケーブル、ブラックベリー、トリニティ、生命の木。。。素敵な模様です。
と同時に、そうした言い伝えは伝説でしかなく「漁のような実用的な仕事に、邪魔になる模様のあるセーターは着ていなかった。もともと編みものが盛んな土地柄だったが、アラン編みにはそんなに長い歴史はなく、さまざまな模様が生まれたのは近年のことである」とする説もあります。

??どっちなのでしょうね?? その答えの一つが本書にあります。

本書のタイトルには「紀行」とあり、のんびりした「セーターのふるさとを訪ねて」という内容を想像させるかもしれませんが、その「伝説」と歴史を巡って頭の下がるような入念な調査とじっくりした取材を行っています。これはわくわくさせる旅行記という以上に、アランセーターの研究書であり、なぞにせまるミステリー作品でもあり、アイルランドの歴史、宗教、民族感情にも密着した一流の紀行文学だと思います。再版を望む方も多いのではないでしょうか。

先の疑問ですが、乱暴にまとめてしまうと「どっちも本当」なのではないかと本書を読んで思いました。

1930年代に、アラン編みには1000年もの歴史と宗教的背景がある、と説明する本を出したアラン編みを世界に広めるきっかけを作った研究者のような人物もいれば、
1800年代〜20世紀初頭にアメリカでヨーロッパ移民が持ち寄った模様が融合して、アイルランドに還ってきたとする証言を著者が引き出したり、逆に非常に敬虔なカトリック教徒である、反英感情が強い地域の人たちにとっては、あくまで伝統とオリジナリティーが誇りであったり、と実にさまざまな解釈があるのです。

そしてもちろん、家族のために「指に脳がついている」ようなニッターたちが、オリジナルに編み出した模様をちりばめて安全や豊穣を祈ったものだったことも確かだろうし(本書では家紋説は立証されませんでした)、かつて貧困地域であって女が職業につけない島で、女性たちがたくましく生き抜く現金収入の道でもあったことは確かだそうなのです。

アイボリー色が基本のようなセーターも、労働着には向かないので、働く人は紺色や濃緑色に染めて着ていること、白いセーターは、堅信礼のようなカトリックの儀式に少年が着る伝統があることなども、この本を読んでわかりました。
よそものがしたり顔に「そんな伝説は(部分的には)なかったんだね」などと言う話ではなく、民族の誇りであることも確かなようです。

アラン島もマン島も区別がつかない状態で読んだ私ですが、おかげでアイルランドの歴史や現在も含めて知ることができました。この本が出た時代とちがって、タグの名前からGoogleで、私のセーターが売られていたアイルランドのお店のようすがリアルにわかる不思議な時代になりましたけど、相変わらずアイルランド最果てのアラン島やケルト世界はミステリアスなままです。セーターも可愛がってやれそうです。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。
お好きなセーター、もう衣替えで出しましたでしょうか?
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