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『山と山小屋』小林百合子=文 野川かさね=写真 平凡社、2012年

山の日設立ばんざい! ということで、今日は山の本のお話です。
個人的に山ブーム(山歩き・山伏・山の怪談)がきているなあ、と不思議に思っていたのですが、無意識に私も「山年(やまねん)」に飲み込まれていたのですね。あるある山々です。

以前、女性だけの漢(おとこ)前な山岳会、ホシガラス山岳会の本『山登りのいろは』(2015年)の感想を書かせていただきました。先日本屋さんに行きましたら、その本を加えたホシガラス3部作(『一生ものの、山道具』(2015年)と新刊『あたらしい登山案内』(2016年))がバーンと面だしして飾ってあるのが目にとまりました。やっぱり人気あるのですね!

本書はホシガラス本に先立つこと数年、同会の編集者である小林百合子氏と、写真家野川かさね氏の二人の本で、出発点のような本になるのかと思います。出版社はちがいますが、デザインなどの雰囲気がとてもよく似ています。
タイトルどおり、「山に泊まる」ことと、人をひきつけてやまない「山小屋」の空気にしぼってその魅力を紹介している本です。

著者の小林氏は、野川氏の写真に、自分が感じていた山小屋の魅力が表現されていると感じて、「周囲があきれるほど足しげく」各地の山小屋をたずねていきます。写真の描写がすてきなので、引用させていただきます。

 はじめて野川さんといっしょに泊まった山小屋は、北八ヶ岳の黒百合ヒュッテでした。山に撮影に来たというのに野川さんは山小屋の撮影に没頭していて、ヘンな写真家だなあ、と思ったことをよく覚えています。
 でも、後日届けられた写真を見て驚きました。やわらかな光が差し込む朝の台所。きんと冷えた朝の空気と食器がたてる清潔な音、おいしそうなお味噌汁のにおい。その写真には、私が漠然と感じていた山小屋の気持ちよさ、うつくしさ、温かさが映し出されていました。この人となら、山小屋という場所の魅力を自分たちらしく表現できるのではないか、そう思いました。
     (「おわりに」より)

ホシガラス山岳会はこうして始まっていったのだなあ。まったく関係ない、ただのファンの私も、野川氏の写真の魅力を的確に表す言葉に、ウンウンとうなずくのでした。

遠い記憶なのですが、私も山に泊まったことがあります。あいにく曇天で星空は見えませんでしたが、
山は何が印象的だったかというと、音でした。静かなのもありますが、反響なのか吸収なのか、平地とは違い、音に透明感や、独特なくぐもりを感じたのを覚えています。湿気も乾燥もダイレクトというか。五感も敏感になる気がします。

野川さんの、かっこいいけど同時に優しい、スモーキーな光の写真が本書にはたくさんのっています。
それを見ていると、自分のうっすらした五感の記憶が思い出されてくるのです。
山ですごーくおなかがすいたこと。渇いたのどに入ってくる風の冷たかったこと。
だるい足をのばせる平らな場所に、ほっとしたこと。針葉樹の匂い、朝もやで湿った肌。

本書に一軒一軒、ていねいに愛をこめて紹介されている山小屋は17軒。
場所は、関東・中越の、八ヶ岳、奥多摩・奥秩父、北アルプス、北関東、丹沢・高尾。
それぞれに歴史ある、その山と一体化して「守られていると感じる」ような山小屋は全部すばらしく個性的です。著者による、落ち着いているけど高揚感の伝わる文章で、どれもこれも行ってみたくなってしまうのです。
特に、つらい思いから逃げるような気持ちで向かった「東京で、いちばん先に朝がやってくる場所」雲取山で見た「希望」みたいな朝日の話と、その時リアルタイムで撮られた写真は、読んでいるこちらもじーんとしました。

かっこいいのに超初心者向けだという、ものすごくコーヒーの美味しそうな八ヶ岳の山小屋。
山の小さな美術館のよう、という、アルプホルンも聞く機会のある長野の山荘。
もうほんとに心を奪われてしまう山の連なり、夏の長野県の山小屋の写真。
いつか行きたい温泉旅館のような山小屋。秘湯としてもとても人気があるこの大黒屋さんの台所の写真は、ホシガラスの本にも載っていた、印象的な映画的な写真です。あっ、尾瀬の写真も最高なのです。

山は厳しい自然そのもの、極限状況にだってなってしまうわけで、山小屋は避難所・交流の場・山を教わる場でもあり、たんなる宿泊施設ではないのだと思います。良い場所であれば連帯感を感じて、リピートしたくなる気持ちがわかります。
山登りに興味がない人からみれば、つらいだけ、山頂にアトラクションもお店もない山登りは永遠の不思議なのだと思うのですが、それこそ魅力の切り口が山のようにある山歩き、私も憧れてしまうのでした。

最後までお読みいただきありがとうございました。
皆さまも、安全で楽しい夏をお過ごしになりますように。
たまには、気持ちの良い場所で過ごしたいですよね♪

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