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『ドイツで100年続くもの』見市 知著 産業編集センター、2015年
(表紙画像は出版社サイトよりお借りしました)

私の行っていた学校は、専門を英語・フランス語・ドイツ語に分けて勉強するところだったのですが、学生はほとんどが日本に住む日本人なのに、みょうに「お国柄」が性格に影響しているように見えるところが不思議でした。
私はフランス語野郎だったのですが、ドイツ語の友達がほとんどできませんでした(歴史的干渉でしょうか)。ドイツ学科の人たちはフランス学科を「だらしないラテン系」と呼んでいるらしいよ。という被害妄想な噂もありました。懐かしいなあ。

思い込みかもしれませんが、ドイツ語を学ぶ人は「買わないために買い物に行く」ような買い物の仕方をしていました。検討に検討を重ねて、複数のお店を回って「買わなくてもいい理由を探す」ような感じです。質実剛健・まじめ・実直・合理的なイメージがあります。

この本を見たとき、そんな「納得してもなかなか買わない」イメージのドイツの人たちに100年以上も必要とされてきたお店がのっているのではないか、ドイツ的に良いものとはなんだろうかと興味を持ちました。

本書のページをめくるたびに、私はドイツについてほとんど知らないことをあらためて痛感しました。
知らないことに触れるのは、わくわくしますね。とても新鮮です!

詳しい人にとっても、旧東ドイツ(地理上の東西ドイツの線引きが私にはわかりませんが)地区というのは、とても新鮮なようで、近年アーティストや若い人が住み着く新興住宅地として人気があるといいます。
東側には西側(懐かしい言葉)の発展に取り残され、いきなり資本主義の生存競争に放り出された・荒んだ場所、新しい使い道を模索しているさびれた郊外であるというイメージがありましたが、くつがえされます。

社会主義体制によって、結果的に保存されてきた皮肉ではありますが、取り残されたところにこそ、100年続く価値の土壌があり(それを勝手に「再評価」「再認識」するのは日本人くらいなのかもしれません)ドイツの人はただ、いいものを見きわめた上で100年以上の長きにわたり、必要としてきただけなのでしょう。

本書はとても実直な文章で書かれていて、信頼感のあるすぐれたガイドブックになっており、内容を主に5章に分けています。
 もの作りの100年を訪ねる
 お菓子作りの100年を訪ねる
 エコの源流を訪ねる
 100年の歳月を見つめて
 ドイツ人の食卓

このうち、私は「もの作りの100年」に、ドイツの歴史と国民性の真髄を感じました。
オリジナルの手工芸玩具を作り続ける小さな会社は、「デザインをコピーした廉価版に取って代わられたりはしないのでしょうか?」という質問に、「私たちは商品を生産しているのではなく、夢を生産しているのです。何世紀にもわたってこの場所で育まれてきた、クリスマスに結びついた夢をね。それは簡単にコピーできるものではないでしょう」と答えています。(ギュンターおもちゃ工房)

ヒトラーによる障害者迫害の「安楽死政策」の時代を、一時閉鎖しながらもくぐり抜けた,
障害者による国立福祉作業所。統一後政府による製品買い上げがストップし、経済的苦境に陥りますが、今ではデザイナーとの共同作業により魅力的な製品(かわいいクマのブラシなど)が次々誕生、脚光を浴びてベルリン名物のおみやげとなっている話。(福祉作業所工房DIM)

「90年代に、商品を安く生産できるブルガリアかルーマニアに生産拠点を移しませんか? と誘いを受けたことがあるんです。でも、いったいどこでだれがどんなふうに作っているかわからないスリッパを、果たして安心して使えるのかな、と思ったんです」この場所で手作業で作り続けていることに自分たちの特性があると思っていると語る店主のスリッパ工房。(ユーネマン・スリッパ工房)

スリッパ工房の話を読んでいると、いちスリッパファンとして、洗えるスリッパを洗う前にダメにして、使い捨てが当たり前な自分が恥ずかしくなりました。きっとこの東ドイツ魂の工房では、プライドを持って修理してくれるにちがいありません。特売で300円のニ◯リのスリッパの故郷と作り手を考えて、胸が痛むのでした。

ほかにも、地下鉄になぜか最近まであった「体重計」、もともと馬車の馬用の街中の水道ポンプ、円柱広告塔、美味しそうなバームクーヘン、ペッファークーヘン、シュトーレン、ずっしりドイツパン。。。

以前友達が「なるべく(良い)小売店で買うようにしている」と言っていました。少しくらい割高でも、吟味して買うようにすると節約になるし、コロコロ変わる大型資本一本化にしたくないからなのだと思います。気に入ったお店に残って欲しいので、私も心がけたいです(便利な商店街がないところでは、そもそも小売店が絶滅しているので難しいですが)。

100年のあいだの歴史を読みながら、ドイツも日本も本当によく荒波を乗り越えてきたと思いました。国民性が似ている(ようでちがう点も多々)、歴史的にもかぶるところの多い日本でも
100年間続いてきたものやこと、建物ってなんだろう、知りたいと思いました。

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