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『女川(おながわ)・雄勝(おがつ)の民話 語りによる日本の民話1 宮城 岩崎としゑの語り』松谷みよ子・編著 日本民話の会・責任編集/国土社、1987年)

ふしぎなお話はお好きでしょうか。私は無宗教で、ふしぎな世界を感知する能力(見えたり視えたり)もないため、非現実的とされる話も、新鮮な驚きがあります。特に、ふつうの生活を舞台にした話だったり、本当にあった話であったりすると、しくみはわからないものの非現実ではなく、それも現実なんだな、と敬虔な気持ちになったりします。

今日ご紹介する本は、私が勝手に持っていた民話のイメージ(主に、懐かしいTV番組「まんが日本むかし話」や、小学校に来た劇団のお芝居など)が広がり、くつがえされた一冊です。

非科学的な話や迷信、こわい話が苦手な人でも、日常の中で「虫の知らせ」「ついてる(ラッキーな方です)」など、説明がつかないぼんやりした表現に接することがあると思います。
そうしたエピソードを、現代にも息づく民話として集め、残すフィールドワーク的な活動がありますが、編著者の松谷みよ子氏もその先駆者的存在として知られています(「現代の民話」シリーズ)。

文字がなかったくらい大昔の「語り部」は、記憶力・創造(想像)力にすぐれた選ばれた人、というイメージがありますが、そんな語りの名手である岩崎としゑさんと松谷氏が出会ったことで、記録・伝承文学としても価値の高い、魅力的な本が奇跡のように出来上がったのです。(痛ましいことですが、大津波に関する、貴重な伝承もたくさん含まれています。そうした意味でも大変価値がある本なので、復刊を働きかけていけたらと思います)

明治40(1907)年に宮城県の今の雄勝町に生まれたとしゑさんは、小さな頃から家族を助けて働き、遊びの少なかった暮らしの中で年長者の「昔語り」を聞くのを楽しみに育ちました。他の子があきても「根っこを掘るように」「それで? それから?」と繰り返し尋ねていたので、「根っこ掘り」とあだ名をもらうくらい。たっぷりたまったお話の泉が、人への語りとして出てきたのは、ご自身が長じて大病をし、「三途の川を見て」戻ってきた後のこと。頭にかぶっていた重い鉢のような、それまでの苦労がすっぽりと抜けた時、自由に話がわいてきたといいます。

不謹慎かもしれませんが、私はそのとしゑさんの三途の川の話が大好きで。語り口が可愛いんですよね。

 「ああ三途の川ってほんとにあったんだなあ、(中略)
  そすたら上の方からねえ、やせて死んだ人がね、白い着物さ着て、三角つけてきたの。
 「あっ、ちょっとあんた」ってゆって、「私もいくんだから、一緒に連れてって」って、こう手出したのね、その人へ。
  そすたらその人が知らんぷりして、自分だけその川渡って、飛ぶように渡っていっときに(たちまち)見えなくなったの。

  いっつまった姿を見て、私がうんと腹立ててねえ、なんと人情のねえ、せっかく手出して待ってんのに、あとから来いでもねえ、いっしょにいこうでもねえ、口もつけねえで(きかないで)いくって、たまげた人情なすな人って、腹立ってねえ、それから(中略)人情なすなこと、って怒り怒りねえ、片足ねえ、その川へひょっとついたの。(本文より)

このあと、三途の川の水の冷たさに驚いたとしゑさんは、家族の必死の介抱のおかげでこの世に戻るのですが、「やっぱり川越えてしまえばだめなんだって。」という言葉でしめています。私も気をつけようと思います。私の亡くなった祖母も、一度重い病気から生還した時は怒ってました。怒りは生きるエネルギーなのかもしれません。

その他にも、体の弱かった時期のとしゑさんの魂が、火の玉になってしょっちゅう「抜けて飛んで歩った」という話が出てきます。優しいおばあちゃんの声で、

 「だけど、丈夫になったけど、飛ぶ夢ばっかり見て、疲れて疲れてねえ。
  家から抜け出る時は、ちゃんと歩いていくの。途中まで歩いていってねえ、人と逢ったりすると、ああ光るものあるって、あれ、なんだか光るもの飛んでたよって、追っかけてくっから、逃げんの。いいだけ逃げっけどねえ、つかまりそうになっと、さーっと私、飛んですまうの、さーっと垣根のようなとこから飛んですまうの。どこまでも空飛んでくの、気持ちいいの。」(本文より)


と「あったること」を語りかけられたら、どんな気持ちがするのでしょうか。
このあと、としゑさんの家にまわってきた和尚さんに「ああ、しん(芯?)が抜けてんだ、入れねばだめだ」と言われて呼び返して入れてもらい、もうとしゑさんは抜け出さなくなったのだそうです。
(沖縄の「魂(まぶい)返し」を思い出しました)

家族や、親しい人に聞くと「本当にあった」話でもこわくないのかな、と思うのですが。
私の父親(現実的なふつうの人です)は「火の玉飛んでたの見たよ。こう(流れる手つき)飛んで行った」と言ったりする人なのですが、その時はこわくありませんでした(今、自分が見えるようになったらと思うと怖いですが、見えたら見えたでふつうの気持ちなのかもしれません)。

またまとまりがない話になってしまいましたが、この本は絶版のようなのですが
もし興味を持たれて、機会があったら、図書館などでご覧になることをおすすめします。
松谷さん(大ファンでした)も岩崎さんも故人となられましたが、こうした素晴らしい本を身を捧げるようにして残されたことに感謝しています。

最後までお読みいただいてありがとうございました!
読んでくださった方、ぽちっとしてくださった方々にも特大の感謝をお送りします。

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追伸:「現代の民話」によると、やっぱり河童はいるそうなんですが・・・!