_SX349_BO1,204,203,200_

(平凡社、2016、別冊太陽 太陽の地図帖_032)

今日は新しいけど懐かしい内容の本をご紹介します。

『日出処の天子(ひいづるところのてんし)』といえば、1980年に少女漫画雑誌「花とゆめ」に初出の、山岸凉子さんによる漫画です。聖徳太子というあまりにも有名な歴史上の人物を、大胆な解釈と筆致で描いた、日本少女漫画界に衝撃を与えた(といっても大げさではないでしょう)名作だと思います。

「別冊太陽」で知られる平凡社から、別シリーズ「おとなの旅の道案内」として出た
「太陽の地図帖」で、この漫画が取り上げられていたので、意外さに驚き、読んでみました。

そもそも実在したかどうかの議論もありますが、日本最古の憲法を制定したとされ、同時に多くの人の声を聞くことができたり、富士山の上を飛んだ、など数々の伝説に彩られた聖徳太子。
この漫画作品の中では「母親も気味悪がって敬遠するほど」冷酷なまでに明晰な頭脳と、神から選ばれたような、不気味ともいえる超能力を持ち合わせた存在、また、仏教信仰の核に存在するような、中性的なエロティシズムをまとった絶世の美少年として描かれています。

血を血で洗うような当時の権勢争いの中、厩戸(うまやどの)王子(諡号(しごう)聖徳太子)は己の天命のため、また何物かに飢えたような自分を全うな存在とするため、同じく超人的なところのある蘇我毛子(そがのえみし)の存在を、公私ともに必要としていきます。

この物語のテーマは、同性である相手に執着し、狂おしく恋慕する王子のエネルギーであり、その欠乏感は物語を強く貫いて進行させ、数々のありえないエピソードにリアルな説得力を持たせています。
この「地図帖」のインタビューで、当時「法隆寺が怒って訴えると言っています」という噂が流れていたと知りましたが(法隆寺からは「私たちは怒っていません」とお知らせがあったそうです)
聖徳太子をこのように斬新にとらえた作品が、当時の読者に与えたショックが想像できます。

またこの漫画作品は、この時代の日本が仏教受容をしていく背景と、王子(太子)の宇宙観の熟成を重ね合わせた物語なのだと思います。
絶望的な結末の中に救いへの希求を感じさせる内容で、宗教=「救い」とはなにか、というところまで踏み込んだ、スケールの大きな作品だと感じました。

このムックは、この作品をなぞり直し、創作秘話はもちろん、専門家による史実との関係、人物相関図(登場するオールスターの関係がよくわかると同時に、よく緻密にキャラクターを作り上げたなあ…と改めて感心しました)、聖地巡礼ガイドとまさに「おとなの旅の道案内」になっています。
(個人的には、聖徳太子が作った会社が、日本最古の会社として現存していることを知って感動しました)

また実際の仏教画に基づいて描かれた原画の、美しい画集ともなっています。
紙質、判型ともにとても読みやすく、初公開の原画も含まれています。
ファンはもちろん、原作を初めて読む方にも満足出来る一冊なのではないでしょうか。

最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
今日もまだまだ文章が固いなあ(汗)精進します。

山岸凉子『日出処の天子』古代飛鳥への旅 (別冊太陽 太陽の地図帖)
平凡社
2016-01-04






*ランキングに参加してみました。どうぞよろしくお願いします。*
押してくださった方、ありがとうございます。
100番以内に入れたらいいなあと思っていたので、びっくり&感激です。
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村